問題が生じたコンピュータのOS
数学では、a(x+y)と、ax+yでは、意味が全く違いますし、これが曖昧では数学自体が成り立ちません。一方、自然言語は、数学のような厳密さを備えておらず、様々な誤解を発生させます。
「AであるXのY」というフレーズのAがXを修飾しているのか、[XのY]を修飾しているのかは、形式だけでは判断できません。
「暗殺されたジョンレノンの妻」では、A(暗殺された)は、X(ジョンレノン)を修飾し、「暗殺されたオノヨーコの夫」では、Aは、[XのY](オノヨーコの夫)を修飾しています。このような判断は、「ジョンレノンは暗殺された。その妻であるオノヨーコは暗殺されていない。」という背景知識に頼っています。背景知識がない場合、例えば、「暗殺された大統領の側近」というフレーズだけでは、暗殺されたのが大統領なのか、側近なのか、いくら考えてもわかりませんが、これを間違えてしまえば重大な混乱を招くおそれもあります。
このように、修飾語または修飾句と「の」や「および」などで結ばれた複数の名詞が登場した場合、修飾語がどこに係っているのかを判断するためには、文脈を読む能力や背景知識が要求されます。機械翻訳でも人間による翻訳でも、修飾関係の判断ミスから生じる誤訳が多く見受けられますので、複数の名詞と修飾語句が登場したら、注意が必要です。
明細書の書き手にとっては、誤解が生じる表現を原稿に書かないことがベストなのですが、実際には、自然言語の形式的な限界のために、「暗殺された大統領の側近」的なフレーズを完全に排除することは不可能だと思われます。したがって、このようなフレーズの前後に、暗殺されたのが大統領なのか側近なのかがわかる情報を加えておくことが重要だと思われます。