「based on」の副詞的用法
今回は、翻訳者にとって悩ましい「based on」に関する話です。
原文:システム100は、その情報に基づいて、パラメータを調整する。
訳文:The system 100 adjusts the parameters based on the information.
この訳文に違和感を感じる方はどれくらいいるでしょうか? この文では、based on は、adjusts(動詞)を修飾しています。すなわち、副詞的用法です。
based onのこのような用法は、厳密には、誤用です。
The parameters are based on the information.
この場合、based on the informationは、parametersの補語(形容詞的用法)にあたり、これは正しい用法です。based on は、名詞を修飾する形容詞句を形成することができますから、「情報に基づくパラメータ」という意味なら、「the parameters based on the information」は、OKです。「情報に基づいて調整する」のように、動詞の修飾句としては(本来)使えません。
シカゴマニュアルでは、based onを「~に基づいて」の意味で使用する副詞的用法は、illegitimate(正当ではない)であり、slipshod(杜撰である)と指摘されています。「~に基づいて」の意味では、based onではなく、on the basis ofなどを使用する必要があります。
MPEPを全文検索して調べてみましたが、based onは、例えば、"rejection based on ...(~に基づく拒絶)"のように、名詞を修飾する形容詞用法としてのみ使用され、「~に基づいて拒絶する」といった副詞句としては、on the basis of が使用されています。すなわち、MPEPは、シカゴマニュアルに従っています。
…と、ここで話が終われば簡単なんですが、現実の特許明細書では、誤用とされるbased onが多用されています。以下は、「明細書の自動作成」で紹介した米国特許US10572600B2号のクレームの一部です。
"determine, based on the at least the portion of the patent claim, a first data structure representing ..."
このbased on は、動詞determineを修飾しており、シカゴマニュアルに従っておりません。本来誤用であるはずの表現を多くの人が使用することによって、許容度が高まり、誤用だと断定できなる事例は多くあります。厳密な文法に従うか、慣用を許容するかは、悩ましい問題です。
*注釈:前記クレームの抜粋において、based on をon the basis ofに訂正(?)することは可能ですが、basisに先行詞がないため、on a basis ofにするべきじゃないか、といった更にややこしい議論が浮上する可能性があります。
based onは、the basisに関する冠詞の議論を引き起こさないため、特許では、based onが好まれる、という考え方もあります。
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