米国特許US10572600B2号における冠詞
前回のブログ「明細書の自動作成」で紹介した米国特許US10572600B2号は、「符号がついている名詞に定冠詞をつけない」というフォーマットで書かれています(以下抜粋)。
"FIG. 1 illustrates a system 100 configured for providing a data structure representing patent claims, in accordance with one or more implementations. In some implementations, system 100 may include one or more servers 102."
初出のsystem 100には、「a system 100」と不定冠詞が付されていますが、以降は単に「system 100」のように、定冠詞「the」が付されていません。特許翻訳業界では、初出の要素にa/an、既出の要素にtheを付すことが常識になっていますが、実は、US10572600B2号に限らず、符号付の名詞に定冠詞を付さないスタイルを採用している書き手は、少数派ですが、存在します。
このようなスタイルが許される理由を理解するには、まず、符号と番号の違いを理解する必要があります。
「図1」、「請求項1」などのnumeralは、「番号」を表し、通常、省略することはできません。「図2は、図1に示す部材の底面図である。」を「図は、図に示す部材の底面図である。」とすると意味が通らなくなります。このように「番号」が付されるFIGやclaimでは、numeral自体が名詞を特定化している(numeralが定冠詞の役割を果たしている)ため、theを付けない場合が多いです。
これに対し「システム(100)は、複数のサーバ(102)を備える。」における100や200は、理解を補助するための「符号」であり、numeralを省略しても文が成立するように書かなくてはいけない。だから、systemには、theが必要である。これが、一般的な定冠詞派の意見です。
しかし、深く考えると、「番号」と「符号」の定義の境界は曖昧であり、system 100の100をFIG. 1の1と同様の「番号」に類するものと捉えれば、無冠詞のsystem 100も許容されるわけです。実際、US10572600B2号は特許されていますから、USPTOもsystem 100にtheを付けるか否かは、問題にしていないように思われます。
但し、MPEPでは、system 100の100のようなnumeralを「reference symbol」と呼んでおり、すなわち、「符号」と捉えているわけですから、少なくとも翻訳者は、無冠詞スタイルより、定冠詞スタイル(符号を省略しても文が成立するスタイル)で訳文を作成する方が無難だと思われます。
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